雄大な景色引き立てる彫刻作品
十勝千年の森を訪れたことがあれば、園内にある複数の彫刻作品に気づいたことがあるかもしれません。手掛けたのは帯広市出身の彫刻家板東優さん(68)。板東さんは「彫刻が置かれることで景色に奥行きが生まれ、その場の空気が変わる」と言います。千年の森に訪れた際は雄大な景色だけでなく、その風景を引き立てる数々の板東作品もご覧ください。
園内にはアースガーデンを中心に、岩やブロンズを用いた10個の作品が展示されています。前回(9月12日)の森の便りからで紹介した「キサラのかけら」、「カムイのサークル」も板東さんが手掛けました。
この2作品は、2000年ごろ、十勝千年の森開園に当たり、知人だった創設者の林光繁から、「麦飯石を使って何かやってくれないか」と依頼され制作しました。
当時はまだまだ整備が進んでおらず、腰の高さまで伸びる草が一面を覆っていました。現在のような緑が広がる庭園を想像できる状況ではありませんでしたが、板東さんは「広い野外で作品を展示できる機会は少ない。わくわく感があった」と振り返ります。
2メートル以上ある大きな岩が1つだけ置かれた「キサラのかけら」は、草原だけが広がるガーデン内にポイントをつくろうと考えてできた作品でした。丘から千年の森を見渡したとき、ガーデンのへそになる場所だと感じ、設置したそうです。
制作のときには、いかに無意識でいるかを最も重視します。板東さんの作品には、自身が抱える言葉に変換できない思いや考えを表現しているものが多数ありますが、それらは無意識の中で生まれたもの。「デザインが頭にあると型通りのものしかできない」と語ります。
そうした無意識から生まれた作品の一つが「ヴィーナスのかけら」(=メイン写真)です。縦、横およそ150センチ四方のオブジェは、鮮やかなブルーが印象的です。「この色は町の中では存在感が出ない。千年の森だからこそ映える」と語ります。
「プロファイル・オブ・ピース」(写真上)は板東さんがイタリア・ローマを拠点としていたときに作ったもの。手を広げる人をイメージしており、無防備であること、危害を加える意思がないことを表しています。
「プロファイル・オブ・ピース」の双子の作品だという「プロファイル・オブ・ファミリー」(写真左)は、板状のブロンズに凹凸がつけられており、家族が体を寄せ合っている様子を描いています。近づいてよく見ると、父、母、子のシルエットが彫ってあるのが分かるはずです。
柔らかそうに湾曲した棒状のブロンズが2本重なり合っている「ライフ・オン・ライフ」(写真右)は、人の触れ合いを描いたものです。「抱擁したり頬を寄せ合ったりして人に触れると相手と自分の体温が分かる。生きていると感じる。自分一人では生きていけないことも分かる」と語ります。
板東さんは彫刻の役割を、空間を創ることだと説明します。広々とした千年の森の中に彫刻が置かれると、彫刻との距離と、彫刻から背景にある日高山脈までの距離が認識でき、その広さが明確になります。板東さんはこれを「空間が現実的になる」と表現し、「彫刻によって立体感を持った景色を楽しんでほしい」と話しています。